今年1月、農業経営アドバイザー試験に合格しました。農業経営アドバイザー制度というのは、日本政策金融公庫農林水産事業が主催するもので、農業経営者が、農業の特性を理解している税務、労務、マーケティングなどの専門家からアドバイスを受けることができるという制度です。昨年秋、簿記、税務、経営診断、労務、農地制度、農業政策、マーケティングといった科目について、研修と筆記試験を受けました。また、2月には、アドバイザーミーティングという研修形式の会合に参加しました。
受験者は、金融機関の方、公庫職員の方の他、税理士の方が非常に多かったようです。経営相談は税理士業務と密接に関係しますから、税理士の方の関心が強いのはよく分かります。また、融資は経営にとって重要な問題ですから、金融機関の方が多いのも当然だと思います。他方、弁護士はと申しますと、見渡した限り、私以外には見当たりませんでした(もしかすると他にもいらっしゃったかも知れません)。
弁護士といえば、やはり民事訴訟の代理人や刑事事件の弁護人など既に発生したトラブル(紛争)に関わる職業であり、それは確かに当たってはいます。トラブルの解決というは、確かに大切な仕事ですが、どちらかというと受動的で後向きな仕事といえます。それに比べ、経営アドバイザーは、能動的で前向きな仕事といえるでしょう。その意味で、農業経営アドバイザーは、弁護士業務から遠いようにも見えます。
しかし、農業経営に関しては、実に多くの法令が関係しています。農業は、食糧供給・価格の安定、農家の保護、食料自給率の向上といった農業政策が大きな影響力を及ぼすため、この分野特有の法律(特別法)が多くあります。それらの特別法は、農業経営のため、もちろん知っておかなければなりません。しかし、法律を理解するためには、他の法律を含め全体を見渡しながら、位置づけを考えていく必要があり、一つの法律だけ知っていれば良いというものではありません。意外と重要なのは、我々弁護士が最もよく使う民法の深い知識と理解です。私は、弁護士が法律を扱う他の職業と決定的に異なるのは、民法を使いこなせるかどうかという点にあると考えています。そして、その法律をどのように生かすのか、一工夫が必要な場合もあります。これは、法律を使った交渉術、法律を合理的に解釈する力と言い換えることもできます。これも弁護士特有のスキルだと思います。弁護士業務の中には、紛争の予防・回避という仕事もあります。農業経営の分野には、この紛争の予防・回避の考え方が役立つと思います。
私は、これまで縁あって農業に関係する事件を何件か扱い、この分野に関心を持ってきました。農業経営アドバイザーの資格取得もそのような関心の現れです。農業関係を正式に取扱分野としたのは最近のことですが、弁護士出身の農業経営アドバイザーとして、農業経営者の方のために、一味違う切り口でお役に立てたらと思います。今後ともよろしくお願い致します。
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