無料相談をしない理由

 弁護士にとって法律相談は重要な仕事の一つです。事件を依頼された方に対し、代理人として全力を尽くすことは当然ですが、事件を依頼されていない方に対しても、法律相談を通じて、紛争解決の指針を示すことができます。ときには、紛争が起きる前に、法律相談だけで紛争の芽を取り除くこともできます。

 ところで、最近、相談無料の広告を出している弁護士が増えてきたように思います。確かに、市役所・区役所が運営する約20分の法律相談は無料ですし、日本司法支援センター(法テラス)の法律相談も無料です。このように無料で相談を受けることができる時代に、わざわざ相談料を支払って法律相談するというのはもったいないという考え方もあるかと思います。この点、民間の法律事務所で無料相談を実施するというのは、サービス精神旺盛に見えるのかも知れません。確かに、取っ付きにくい法律事務所に気軽にアクセスできる環境を整えることは、大切な側面もあります。

 しかし、よく考えてみると、民間の法律事務所で無料相談というのは不思議な感じがします。法律事務所は、人件費、テナント料、リース料、光熱費、弁護士会費等、毎月相当額の経費をかけて運営されています。税金も支払わなければなりません。その上で、さらに余った分がようやく自分達の生活費となるわけです。行政機関の運営する相談が無料なのは、行政サービスの一環として、行政機関が相応な経費をかけて運営しているからです。どの弁護士も、当然、そのことは分かっており、売上と経費のバランスを考えながら事務所を経営しているはずです。そのような中、無料相談とは一体何を意味するのでしょうか。

 その答えは、顧客の誘因、つまりできるだけ多くの人に事務所へ足を運んでもらった上で、その中から依頼される事件を探し出すという点にあると考えます。事務所経営の観点からすれば、無料相談を実施するには、事務所側にとって、それを上回る利益が見込めるという前提が必要不可欠だからです。この考え方を突き詰めれば、法律相談は、アドバイスすることが目的ではなく、あくまでも事件依頼を受けるための手段・道具ということになりそうです。そうすると、事件依頼の見込みがない相談については、あまり乗り気ではなくなるかも知れません。依頼を受けられそうな事件かそうでない事件かの見極めであれば、短時間で十分可能だと思います。

 ところが、私の経験上、法律相談を経てから、最終的に事件の依頼を受けることになる比率は、せいぜい3割程度ではないかと考えています。残り7割程度は、法律相談だけで解決の糸口が見つかったり、逆に厳しい見通しが分かって進めることを断念したりします。従って、私は、この最初の法律相談が非常に大切だと考えています。そこで、充実した法律相談を行うため、相談時間は1時間程度を確保し、関係のありそうな資料をできるだけ用意してもらいます。こちらも、法律の専門家という立場で、相当な時間をかけて、どこまで積極的なアドバイスができるかという姿勢で相談に臨みますので、相談者の方々には、相応の費用を負担いただいています。1時間程度10,000円(税別)という金額は、確かに食料や生活雑貨等と比較すれば高価かも知れませんが、例えば、自由診療の医療(弁護士には医療における健康保険のような制度がありません)、カウンセリング、マッサージ等と比較すれば、決して高価ではないはずです。もちろん、数ある相談の中には、たまに専門性を発揮できない一般論や人生相談等、結果的に法律相談に至らないこともあります。そのようなとき、私は相談料をいただかないようにしています。

 今後も、相談料にふさわしい法律相談とは何かを考え続けて、実践していきたいと思います。

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