2012年が終わろうとしています。今年は皆様にとってどのような一年だったでしょうか。
一年の締めくくりに、大きなテーマについて考えてみようと思います。それは、私が日々の仕事や弁護士会の委員会活動を通じて感じている、現在の弁護士業界の抱える世代間格差の問題です。それは今の日本社会が抱える問題にも通じるものがあると考えています。
今、弁護士は大別して3つの世代に分類できると思います。相当な年数のキャリアを持つベテラン世代、弁護士になってまだ年数の少ない若手世代、そして、会社で言えば「中間管理職」ともいうべき中間世代です。私は、おそらくこの中間世代に属するものと思っています。
ベテラン世代の人は「勝ち組」です。日本経済の繁栄とともに弁護士人生を歩み、不況の現在にあってもこれまでの蓄えで最後まで乗り切ることができる見通しが立っている世代です。弁護士の数が少ない時代に、利益率の高い仕事を確保し、経済的に割に合わない仕事にも余裕をもって臨むことができた世代ともいえます。
これに対し、若手世代は「負け組」です。法科大学院や司法修習に相当なコストをかけて弁護士になったものの、既に日本経済は低迷しており(弁護士は不況に強いと言われることがありますが、弁護士も民間の自営業者ですから、そのようなはずがありません)、加えて弁護士大増員により相対的に仕事の機会が減り、将来の展望は厳しいものがあります。
そして、中間世代はベテラン世代と若手世代の狭間で難しい立場にあります。自分達が若手だった頃には、ベテラン世代の背中を見ながら弁護士業を学び、まだ大増員時代の前だったこともあり、ある程度、多種多様な経験を積む機会に恵まれました。しかし、これから先、今までのやり方でベテラン世代と同じように弁護士業を全うできるかと問われれば、そう簡単ではないということも分かっています。
どの業界でも同じだと思いますが、従前の弁護士業界も、まずは先輩を見習い、先輩を真似ることで、徐々に一人前になっていきました(「真似る」と「学ぶ」は同じ語源と言われています)。そして、自分達が一人前になって、その培った経験を次の世代に伝承していったのです。ところが、私達の業界で、このような仕組みが急速に崩壊しつつあるように感じます。
手本となるべきベテラン世代は、どうしても自分の成功体験に基づくアドバイスをしがちです。「もっと頑張れ。とにかく頑張れ。頑張れば報われる」というアドバイスです。しかし、私達中間世代は、そのアドバイスをそのまま若手世代に伝えるわけにはいきません。昔とはあまりにも時代が違うからです。急速に法律が変わり、社会の価値観も非常に複雑になっています。私達弁護士に対する社会の目も変化しつつあります。弁護士は、昔は「先生」と手放しで尊敬されていたかも知れませんが、今はそのようなことはありません。
最近の若い弁護士は質的に問題があるなどと言われることがあります。しかし、私の知る限り、若手世代の人達は、全体的にやる気を持ってこの業界に参入してきます。新しい法律もよく勉強していますし、若い分だけベテラン世代よりフットワークもいいと思います。他方、実務経験を積む機会は、ベテラン世代が若かった頃に比べ、圧倒的に減っているはずです。いくら机に向かって勉強しても、経験を積まなければ実務を乗りこなすことは困難です。
問題は、このような状況が続き、若手世代がベテラン世代を尊敬できない環境になりつつあるということです。ベテラン世代のアドバイスがあまり役に立たず、むしろベテラン世代が既得権益で若手世代の機会を奪っているという見方もできるからです。後輩が先輩を尊敬しない社会は、世代間の断絶を産み、持続性もなくなり、先輩・後輩どちらにとっても不幸です。
このような中、私達中間世代が、いわば「中間管理職」として若手世代に指針を示さなければならないのですが、これがなかなか容易ではありません。私自身の考えもまとまっていません。しかし、漠然と考えていることが2つほどあります。一つはベテラン世代が仕事の機会を次の世代に大胆に譲ることです。今、弁護士業界の舵取りをしているのはベテラン世代です。弁護士には定年がない上、有力なポストや経済的時間的な余裕が発言力の強さにつながっているように思います。従って、単に自由競争に委ねるだけでは、いつになっても次の世代に仕事の機会は移りません。業界全体の意識を変える必要があると思います。
もう一つは中間世代や若手世代が、ベテラン世代の享受してきた弁護士としての社会的経済的地位を希求しないことです。誇りを持ってこの仕事をするのは当然ですが、弁護士だから経済的にこの程度は当然だ、弁護士だからこのくらい尊敬されなければおかしいといった価値観を捨てることです。こちらも業界全体の意識を変える必要があると思います。
日本社会も同じ問題を抱えていると感じます。今や毎日のように「景気回復」「雇用拡大」が連呼されています。しかし、年配世代から中年・若年世代に機会と財を大胆に移行させない限り、世代間格差は拡大するばかりです。「雇用拡大」など夢のまた夢です。そして、日本人全体が、戦後の物質的繁栄は永続するものだという考えを捨て切らない限り、日本経済は必ずどこかで行き詰まるはずです。「景気回復」の特効薬などあるわけがないのですから、身の丈に合った生活とは何かをよく考えるべきだと思います。
来年はさらに難しい年になりそうですが、こういう時こそ、変えるべきは私達の意識だと思います。
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