ワシントンでは、裁判所のMulti-door Dispute Resolution Divisionを訪問させて頂きました。これは、裁判所に提訴された案件について、判決ではなく、話し合いよる解決を試み、また、提訴前の話し合いについても管轄する部署です。日本でいう調停や仲裁のイメージです。
Multi-door Dispute Resolution Divisionには、スタッフが30名ほど、ボランティアが120名ほどいらっしゃるようでした。1回のセッションが約2時間、3~5回のセッションで解決を図るという運用は、日本の調停と共通していました。日本の調停と異なるのは、調停委員に相当するmediatorが1人であることです。このmediatorは、特に資格制度はないのですが、経験を積んだソーシャルワーカー、心理学者、弁護士などが担当しており、トレーニングを受けています。
裁判所内には、親がmediationをしている間、9時から16時半まで、2歳以上の子どもをあずけることができる託児所がありました。
渡米する前は、アメリカでは裁判が主流なのかと勝手なイメージを持っていたのですが、そうではなく、実際には裁判外の紛争解決手続(ADR)が広く行われています。裁判となれば、弁護士費用や専門家証人の費用が高額となりますし、また、裁判所のコストや処理能力という現実的な要請もあるのでしょう。様々なバックグラウンドを持つ、多様な民族が生活している社会においては、互いに言い分を尽くしたうえで、妥協点を見出すことに意義があるからではないかと思いました。
刑事の分野においても、日本では厳罰化の傾向が顕著ですが、アメリカでは、民事も、刑事も、対立構造ではない方向に進んでいるように感じました。
紛争は多様なのですから、裁判にこだわらず、解決のための色々なチャンネルがあってよいのではないかと思います。今後、日本においても価値観が多様化していくことは間違いなく、その必要性は高くなるかもしれません。まさに、Multi-doorであるべきだと思います。