先日、長く争っていた道路交通法違反(酒気帯び運転)の事件について、無罪判決が言い渡されました。厳密に言えば、刑の重い酒気帯び運転だけでなく、事故の報告義務違反も起訴され、そちらは争いがなく有罪判決が言い渡されましたので、一部無罪ということになります。受任時より、殺人等の重大事件とは別の意味で厳しい裁判になることが予想されましたので、金岡繁裕弁護士に共同で弁護を引き受けてもらい、徹底的に争った結果、かろうじて無罪に至ったという実感です。
この事件では、警察官による飲酒検知時、依頼者は政令で定める程度以上のアルコールを保有する状態でしたが、自動車を運転して物損事故を起こしたとされる時刻から一定時間が経過していました。検察官は、当日夜中に作成された自白調書に基づき、被告人は事故前に飲酒をしたが事故後には飲酒していなかったと主張しました。これに対し、弁護人は、自白調書の任意性を争った上、飲酒の再現実験をするなどし、依頼者は事故前には飲酒せず事故後のみ飲酒していたと反論しました。裁判所は、自白調書を採用し、被告人は事故前に飲酒したものと認定しつつ、事故後も飲酒した可能性があるとし、結局、政令で定める程度についての証明がないという理由で無罪としました。
無罪判決ではありましたが、弁護人の立場からすると、どうもすっきりしない内容でした。その理由は、取調べ備忘録の開示を受けたり警察官複数名を尋問したりするなど、弁護活動の本筋と位置づけて相当な労力を注ぎ込んで争っていた自白の任意性判断で敗れ、判決では自白の信用性も認められたからだと思います。裁判所の判断の分かれ目は、弁護人が最後に予防線を張っておいた数値の問題でした。その意味で、当事者の主張と裁判所の判断がやや噛み合っていないような印象を受けました。
この事件は公判前整理手続には付されませんでしたが、任意の証拠開示を活用したり、尋問の合間に進行協議的な公判期日を入れたりするなど、いわば「整理手続風」に公判が進められました。そのおかげか、数ある事件の中では、争点と証拠が比較的よく整理されていたはずです。それでも、論告においては、弁護人にとって想定外の主張が飛び出し、その主張に反論するため、さらなる証拠収集等をするというイレギュラーな事態が発生し、判決も弁護人の意図したものとはやや異なる方向性のものでした。
今回の件で得た教訓は、いかに争点と証拠を整理してもなお想定外の事態は発生するということと、無罪判決は弁護活動の力点と異なる所から飛び出すことがままあるということでしょうか。もっとも、どちらの教訓も、以前から薄々と感じていたことではありますが。