「伝統の味」の継承

 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして接見することができるとされています(刑事訴訟法39条1項)。被疑者・被告人にとって重要な秘密交通権であり、これ以外の接見は、原則として施設の職員が立ち会う一般面会となります。例えば、民事事件の打合せや交渉などのため、勾留されている被疑者・被告人と接見する場合は、弁護士といえども、弁護人又は弁護人となろうとする者ではないので、一般面会となります。

 この秘密交通権との関係で、名古屋拘置所での接見の際、毎回、気になることがあります。接見申込書のことです。現在、拘置所の窓口で接見を申し込むとき、受付が認められる申込書は2種類あります。一つは弁護士会が発行するもの、もう一つは拘置所が発行し窓口で受け取ることができるものです。

 弁護士会発行の申込書は、日付、被疑者・被告人名、弁護人名だけを記載するシンプルなものです。現在も弁護士会で発行されており、弁護士であれば弁護士会の窓口等でいつでも入手することができます。これに対し、拘置所発行の申込書には、日付、被疑者・被告人名、弁護士名のほか、所属弁護士会、弁護士登録番号、面会の用件(刑事事件の弁護人、刑事事件の弁護人となろうとする者、一般面会(民事事件、その他))、国選・私選の区別(私選の場合には依頼者名)などの記載事項があります。以前は、弁護士会発行の申込書1種類しかありませんでしたが、ここ数年前に拘置所発行の申込書が登場し、窓口で貰える便利さもあって、一気に広まりました。

 ところで、拘置所発行申込書の記載事項のうち、所属弁護士会や弁護士登録番号の記入を求める程度であれば、弁護士であることを確認するという意味で、やむを得ないかも知れません。警察の留置施設接見申込書にも、登録番号の記入欄はあります。しかし、面会の用件や国選・私選の区別の記入については、行き過ぎだと思います。弁護士が秘密交通の実施を申し出ている以上、弁護人又は弁護人となろうとする者としての接見であることは自明の理だからです。逆に、弁護士が秘密交通の実施を申し出ないのであれば、その弁護士は弁護人又は弁護人となろうとする者ではないことを意味します。弁護士用の接見申込書に一般面会の欄を設ける積極的理由を見出すことはできません。国選・私選の区別も秘密交通権の保障とは無関係です。特に、私選弁護人の場合、当の弁護士が弁護人選任権を有する人物から依頼を受けたと言っている以上、拘置所に対しその人物の名前まで明かす必要などないはずで、守秘義務との関係でも問題を孕んでいます。

 このように考えれば、私たち弁護士が拘置所側に提供すべき情報は、弁護士会発行の申込書の記載事項に尽きているはずです。それ以外のことを尋ねるのは、余計なお世話という他ありません。

 ところが、残念なのは、私の把握する限り、多くの弁護士が拘置所発行の申込書を使っているということです。そのような場面を見かけた場合、私は、弁護士会発行の申込書をその弁護士にプレゼントして、そちらを使うことを勧めることがありますが、あまり問題意識が伝わらないように感じることがあります。

 伝え聞くところによると、現在の形式の弁護士会発行の申込書が生まれたのは、ずいぶん昔のようです。私は、申込書を作った先輩弁護士達の筋の通った考え方に敬意を表しながら、「伝統の味」ともいうべき申込書を使い続けています。

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