ハラスメント雑感

 財務事務次官のセクハラ問題で、世間では実に様々な意見が飛び交っています。本人が事実を否認しており証明されたわけではないという意見から、辞任は当然だという意見、テレビ局が悪いという意見、さらには仕事欲しさに2人きりで会ったのが悪いとか、会話を録音したのが悪いとか、週刊誌に持ち込んだのが悪いとか、終いには次官がはめられたといった意見まであるようです。

 このうち、事実が証明されたわけではないという意見は、弁護士としても、なるほどと思うところはあります。しかし、この件は刑事事件の捜査や裁判になっているわけではなく、問題の録音も公開されていますので、ひとまず、あのような発言があったことを前提に意見を述べるのは、事の性質上やむを得ないと思います。

 そうすると、あのような場面で男性が女性に対しあのような発言をして許されるはずがありませんので、明確にセクシュアル・ハラスメントであり、当の本人が責任を取るとともに、再発を防止するにはどうすれば良いかを議論するのが筋だと思います。その言動によって女性が「気持ち悪い」「不快だ」と感じるかどうか、想像力を働かせれば、問題の本質を見誤ることはないはずです。

 ところが、ハラスメントを正面から問題視することを避け、前述のように女性側を非難する意見が意外と多く見られます。これらの意見は、一見、多種多様で尤もらしいものに見えますが、根底には、ハラスメント自体はさほど大した問題ではなく、女性側の反応が過敏だという共通の価値観が横たわっているように見受けられます。

 まさに、日本社会に深く根差す男尊女卑の思想の現れと指摘すべきですが、克服までの道のりは遠く険しいものになるでしょう。欧米諸国においてさえ、百年規模で変革に取り組んできたにもかかわらず、#MeTooに代表されるように、未だ到底克服されたとはいえない状況なのですから。

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