ここ数年の傾向からみると、私が受ける法律相談は、刑事弁護に関するものや、会社のやや複雑なコンプライアンスに関するものが比較的多いのですが、農地に関する法律相談も時々あります。農地の相談のほとんどは、当事務所のウェブサイトをご覧になった方からのものです。取扱分野の一つに農地に関する相談を掲げている事務所が少ないせいでしょうか、東海三県だけでなく、かなり遠方からの相談もあります。
私は、縁あって2012年に農業経営アドバイザーの試験に合格し、その前後に農地法をはじめとする農地に関する法律を集中的に勉強しました。日本の食文化とその行く末に興味があったというのも理由の一つです。このような経緯から、主要な法令の仕組みや解釈、実務上の注意点などは、ひと通り把握しているつもりです。ただ、自分自身で農業を営んでいるわけではありませんし、行政の委員の経験があるわけでもないので、恥ずかしながら農業従事者の方であれば当然知っているであろう実務の慣行が抜け落ちていることもあり、その意味ではまだまだ経験不足です。
それでも、農地に関する相談に来る方の多くは、私レベルでも、農地法を知っている弁護士に初めて出会ったという感想を持つようです。農地に関する法律問題といっても、その多くは農地の相続や時効取得、それに賃貸借をめぐるもので、一件一件違いはあるものの、パターン化されている部分もあります。農地法のいくつかの条文と解釈を理解していることは必須ですが、主たる争点は、当事者間にどのような合意があったか、どのような営農がなされてきたか、といった事実認定レベルにあることが多いようです。したがって、本来、弁護士であれば誰もが日常的に取り扱っている業務と同じともいえます。
ところが、特に農村部からの相談者の中には、地元の弁護士に相談してみたが、農地法の案件は取り扱ったことがないという理由で依頼を断られたという方が相当数います。その結果、代理人をつけずに本人訴訟を進めたり、自力救済まがいのトラブルに巻き込まれて警察沙汰になったりして、最初から弁護士がついていればこのようなことにはならなかったのに、と思うことがよくあります。中には、本人訴訟の場合、農地に詳しい地元の行政書士や司法書士に相談しながら訴訟を進めてきた、という方もいます。確かに、許可申請に詳しい行政書士の方や、登記に詳しい司法書士の方は多いと思います。しかし、裁判戦略の立て方や証拠収集といった弁護活動は、やはり弁護士でなければ難しい領域です。本人訴訟の結果、第一審で敗訴し、控訴審段階で相談に来る方に出会うたび、もう少し早く対応できれば、と忸怩たる思いを抱きます。
農政改革が進む中、農地や農業に詳しい弁護士がもっと増えて良いと思います。