愛知県警のポスター

 愛知県警が駅構内などに痴漢撲滅を訴えるキャンペーンのポスターを掲示したところ、批判が相次ぎ、撤去を決めたというニュースがありました。ポスターのことは、昨日、初めて知ったのですが、一見してこれは酷いという内容で、仲間内でも弁護士会として速やかに抗議すべきではという声があったほどです。もっとも、県警が慌てて撤去したので、抗議するタイミングを失したとも言えます。

 ポスターのタイトルは「あの人、逮捕されたらしいよ」。タイトルの右に若い男性のイラストが描かれています。「あの人」とは、この爽やかそうに描かれた男性を指すのでしょう。タイトルの左には、若い女性を想定した2人のSNSでのやり取りが続きます。「聞いた?あの人、痴漢で捕まったらしいよ」「えw」「痴漢?」「本当本当!さっきネットニュースで見た!そんな人に見えなかったわ」「気持ち悪軽蔑だわ」「性犯罪者じゃん」「仕事もクビになるよね〜家族も悲しむだろうなあ…」「そりゃそうだわ私は一生関わりたくない」「この先どうなっちゃうんだろう…」「そういえば…私先月あの人と電車で偶然会ったよ」「そうなんだ?!変なことされなかった?」「あの時は何ともなかったけど」「なんかもう、あの人のこと思い出したくもない」「女性の私たちも被害に遭わないよう気をつけなきゃね」と、これで全部です。

 きっと、このポスターの狙いは、痴漢はこのように見られているというメッセージを広めることによって、痴漢を思いとどまらせ、それとともに、人は見かけによらぬものという観点から、痴漢への警戒を強めることにあったのでしょう。警察の立場から、その狙いは理解できなくもありません。しかし、手段はいかにもお粗末でした。

 何と言っても、逮捕=性犯罪者という決めつけは、無罪推定の鉄則と相容れません。「痴漢冤罪」が存在することからも明らかです。茶飲み話や井戸端会議ならまだしも、強大な権力を有する公的機関として、最も推定無罪を尊重しなければならないはずの警察が、公然とこのようなポスターを作っていては話になりません。ポスター1枚から、警察の本音を垣間見たような気がします。

 もう一つ、ポスターの最後には取ってつけたように「女性の私たちも被害に遭わないよう気をつけなきゃね」とあります。しかし、一体何をどう気をつければよいというのでしょうか。乗りたくもない満員電車の中で、抵抗しようにも抵抗できず痴漢被害に遭うという事例が多いはずです。通勤・通学の都合上、決まった時間帯の満員電車を利用せざるを得ない事情もあるでしょう。混雑時、全ての路線で十分な女性専用車両が設置されていればまだしも、そうでない現状において、異常な満員電車に押し込めておきながら「気をつけなきゃね」で済ませては、何の対策にもならないと思います。

 何にせよ、速やかにポスターの撤去が決まったことには安心しました。

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