10月17日、最高裁判所は、名張毒ぶどう酒事件(請求人奥西勝さん)について、抗告を棄却する決定をしました。この事件では、平成17年に約400頁に及ぶ再審開始決定が出て、一度は再審の扉が開きかけました。しかし、最高裁は、わずか5頁の薄っぺらい決定で第7次再審の扉を閉ざしました。
この事件では、第5次再審において王冠鑑定(奥西さんが王冠を歯で噛んで開けたとし逆転死刑判決の決め手となったクロ鑑定の誤りを明らかにした新証拠)が提出されました。そして、第7次再審においては毒物鑑定(事件に使用された毒物がニッカリンTであったとした有罪認定に疑問を生じさせる新証拠)という2つ目の強力な新証拠が提出されました。このように無罪を指し示す方向の証拠が2つもそろったにもかかわらず、裁判所は、奥西さんを再審=裁判のやり直しのスタート地点にさえ立たせません。今はまだ再審の公判そのものではなく、その前段階の再審を始めるかどうかを決める手続で止まっているのです。
しかし、有罪判決に一定の疑問が投じられた以上、あとは公開の法廷で正々堂々と決着をつければよく、刑事訴訟法もそのように定めています。ところが、日本では、驚くべきことに、裁判官自身が平然と法律をねじ曲げて解釈し、再審の壁を異常に高く設定しています(そして、おそらく彼らは法律をねじ曲げて解釈しているという自覚すらないと思います)。今の裁判所の姿勢では、足利事件や東電OL事件のようにDNA鑑定で完全にシロが証明されない限り、再審は開かれないということになるでしょう。私たちは、この裁判所の間違った姿勢を、粘り強く変えていく努力をしなければなりません。
昨年5月の再審請求棄却決定の後、奥西さんの健康状態は悪化し、現在、八王子医療刑務所に収容中です。残された時間は長くないと言わざるを得ません。しかし、弁護団はすぐに第8次再審請求の準備に入りました。まもなく再審の壁に対する新たな戦いが始まります。次こそ必ず壁を打ち破ることができると信じています。
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