待合室の弁護人

 刑事弁護の中には、逮捕・勾留されていない方からの依頼もあります。そのような場合の弁護活動の中心は、取調べ対応となります。警察官や検察官から「被疑者」である旨伝えられ、黙秘権を告げられた上、取調べを受ける方もいれば、あくまでも「参考人」であると言われ、しかし、かなり厳しい内容の取調べを受ける方もいます。

 被疑者の場合、逮捕・勾留されていない場合、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができるとされています(刑事訴訟法198条2項)。この条文は、逮捕・勾留されている場合には取調べ受忍義務があるという根拠に使われる点であり、黙秘権との矛盾を孕む問題のある規定です。しかし、少なくとも、逮捕・勾留されていない場合、被疑者は、何時でも退去することができる、要するに任意であると明記した非常に重要な条文です。

 また、被疑者以外の者(参考人等)についても、逮捕・勾留されていない被疑者と同様の扱い、すなわち出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができるとされています(刑事訴訟法223条2項)。

 ところが、現実には、警察官や検察官から呼び出しを受ければ、本心は出頭を拒みたくても、多くの人は断りきれず、嫌々ながら出頭すると思います。被疑者の場合、出頭を拒否したからといって、直ちに逮捕されるものではありませんが、不当にも実際に逮捕されることがあるため、現実を見据えて慎重に対応する必要があります。

 そこで、警察署や検察庁に出頭した上、弁護人・代理人としてどこまで対処できるかが問題となります。この点、日本の捜査機関は、取調べにおける弁護人等の立会いをまず認めないので、取調室に入ることは不可能に近いものがあります。このように弁護人依頼権の行使を実質的に阻む前近代的システムの不当性はいうまでもありません。が、現実問題として、文句を言っていても始まりません。では、被疑者等を警察署や検察庁に連れて行き、見送って自分だけ帰るしかないのでしょうか。

 以前、優秀な同業者の方から、被疑者等と一緒に出頭した上、弁護人等は警察署や検察庁の待合室に待機し、取調べ中の被疑者等にこまめに電話連絡し、取調室からの退席を促し、待合室で休憩しながら取調べについてアドバイスをする、これを繰り返すとよいと教えてもらいました。実際にやってみたのですが、なるほど、取調べの立会いには及ばないものの、やり方次第では、立会いに迫る効果を得られるのではないかと手応えを感じました。

 問題は、自分自身も、警察署や検察庁の待合室に半日ほどいなければならないということです。ノートパソコンを持参し、仕事をしながら待機すれば、時間を無駄にすることはないのですが、取調室に入ることができず、だからと言って事務所で仕事をするように自由度はないので、何とも中途半端な気分ではあります。しかし、依頼内容次第では、基本的な弁護活動に組み入れてもよいと思いました。

 

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