勾留裁判のばらつき

 事実認定、法的評価、量刑等を争う本体の刑事裁判では、ときどき想定外の判決・決定を受けることがありますが(そして、たいてい想定外に悪いほうの結論です。)、自分が担当した刑事事件全体からみれば、おそらく件数的にはそれほど多くないでしょう。ところが、勾留決定や勾留延長に対する準抗告、保釈、接見等禁止に関する勾留裁判では、日常的に想定外の決定を受けています(そして残念ながら、こちらも、たいてい想定外に悪いほうの結論です。)。

 あくまでも個人的な感想ですが、この現象について、私は、今のところ次のように考えています。本体の刑事裁判においては、事件の「筋」、あるいは動かし難い証拠関係といったものが存在するため、裁判官の判断に比較的ばらつきは生じにくくなります(もちろん、ときには結論の違いとなって現れ、被告人が失うものの大きさは勾留裁判より深刻です。)。これに対し、勾留裁判においては、罪証隠滅や逃亡という要素をどのように考えるか、裁判官によって基本的な考え方にばらつきがあるため、ある裁判官が却下した申立について、時間をおいてから少し体裁を変えて再度申立をすると、今後は別の裁判官があっさり認容するといったことが、よく起こります。1回目の申立と2回目の申立との間に、特に大きな事情の変更がないにもかかわらず、です。また、ほぼ同様の立場にある共犯事件について、別々の裁判官が勾留裁判を担当する場合、片方の被疑者の申立が認められ、もう片方の被疑者の申立が却下されるという理不尽なこともあります。

 このような現実を目の当たりにし、勾留に関する申立をする弁護人として、担当裁判官の「当たり外れ」は、どうしても意識せざるを得ません。名古屋地裁の場合、勾留裁判を担当する裁判官は毎日交代し、準抗告を担当する裁判所(刑事部の合議体)は毎週交代するようです。毎日交代する裁判官を予測するのは不可能ですが、個々の裁判官の判断傾向を記録化しておけば、少なくとも準抗告審で取り消されやすい判断をする裁判官を把握し、準抗告申立に活かすことが可能です。また、週替わりの準抗告裁判所であれば、別事件の申立や他の弁護士からの情報提供等により、その週の担当裁判所を把握することができます。もちろん、勾留されている被疑者・被告人のことを考えれば、とにかく一刻も早い判断を、となりますが、早くても結果が伴わなければ無意味です。そこで、密かに「当たり」の裁判所を引き当てるべく、「外れ」の週を見送り、翌週まで申立を待つというような策を講ずることもあります。

 しかし、よくよく考えてみれば、このような発想は不健全であり、勾留裁判のばらつきこそが問題とされるべきです。勾留裁判に対する弁護活動は、まだ歴史の浅い分野ですから、今後、理論の深化と裁判例の集積を経て、一定の判断枠組みを構築し、裁判官・裁判所によるばらつきを減らしていくことが重要と考えます。

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