先日、私にとって2件目の裁判員裁判の弁護をしました。かなりひどい内容の性犯罪が対象事件でした。この事件では、検察側と弁護側で事件のいきさつについて大きな対立があったので、自白事件か否認事件かと言われれば否認事件でした。しかし、彼が事件を起こしたこと自体は間違いなかったので、裁判の主な争点は、彼を何年の刑にするかという点でした。
ところで、裁判員制度が始まって、殺人事件と性犯罪の事件は刑がかなり重くなったと言われています。私も、実際の弁護活動を通じて、そのように思うことがありますし、弁護士会の委員会活動の中で様々な判決に接し、そのように実感することもあります。今までが軽過ぎたのか、今が重過ぎるのか、評価は非常に難しいところです。しかし、裁判員裁判においては、よく似た事件であるにもかかわらず、全く正反対の理由で刑に大きな開きが生じてしまうということが、実際によくあるようです。ですから、我々弁護人は、この点をかなり意識しながら、慎重に弁護活動する必要があります。
この事件で私が意識したことは、まず、捜査機関の作成した供述調書を極力使わせず、法廷で生の声を聴いてもらうということでした。被害者の女性を証人として呼んでもらうことは、その女性にとって非常に気の毒な側面もありました。弁護士の間でも、このような場合、できるだけ証人尋問はせずに供述調書の朗読で済ませるべきだという意見もあります。しかし、今回の事件に関して言えば、女性にきちんと証言してもらうことで、供述調書よりも、実際に起きたことに近い証言を引き出すことができたと思います。また、女性の声を被告人の彼に聴かせることによって、彼がより深く反省する機会ができたと思います。女性が証言した翌日、彼の被告人質問を行いましたが、全てを彼の言葉で語らせることができ、彼の供述調書が法廷に出ることはありませんでした。女性の証人尋問と被告人質問との間がもう数日あいていれば、もっと彼に深く語らせることができたかも知れません。
もう一つ、最終弁論で、他の事件で過去に何年くらいの刑が言い渡されているかを詳しく説明しました。裁判員制度の導入後、検察官は、過去の裁判例に縛られることなく、より重い求刑をするケースが出てきました。この事件でも、検察官は、かなり重い刑を求めました。もともと、弁解の余地のない事件ですし、被害結果は重大です。どのような重い刑罰であっても甘んじて受けるべきだという雰囲気の中、先例に比べて重い刑が言い渡される可能性は常にあります。しかし、やはり刑罰は公平に決められなければなりません。一人の人間を刑務所に送るということは、その人にとって人生の一大事です。慎重に慎重を重ね、冷静に判断されなければなりません。弁護人は、この点を特に強調する必要がありました。
この裁判では、裁判官も裁判員も冷静な判断をしてくれたと思っています。裁判員裁判は、今までの裁判と異なり集中的に行われるため、弁護人の負担も相当なものがあります。しかし、弁護人が努力すれば、それは必ず被告人にも伝わるはずですし、被告人のその後の人生にとって必ずプラスになってくれるはずです。今回の裁判で彼が「やるべきことはきちんとやった」と納得した上で刑務所に行ってくれたのならば、弁護人としてもやりがいがあったと思います。
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裁判員裁判(1)
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